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近代日本経済思想史Ⅱ p41 5 『支那革命』から『日本改造』へ――「革命的大帝国主義」の形成 大隈重信と北一輝 中国（辛亥）革命のあと、第三革命の渦中に執筆された『支那革命外史』（1915―6年）は、すでにみたように、アジアの危機、アジアとの危機を背景に、時の宰相大隈重信（1838－1922）の「東西文明融合論」を批判し、「革命支那」の現状分析（歴史的位置づけ）をふまえつつ、「日本の対支策および対世界策の革命的一変」を力説したものであった。大隈の路線は、明治以来の「欧化（＝産業化）」の全面的肯定に立脚し、そうした「文明開化」のアジア諸地域への拡散の媒介者として。実質上、「欧州的」帝国日本のアジアに対する独善的な支配・膨張をささえようとするもので、欧米列強の経済的圧力（市場剥奪＝国際分業秩序への編入）に対し真っ向から反発する意志と力能を欠くままに、「西側で失ったものを東側で埋めあわせる」従属的帝国主義の政策にほかならない。これに対して北一輝は、日中離反（アジアとの危機）はアジアの危機を激化させるという基本認識から、中国民族革命を「神風」として日本が親中反英へと外交の方向を逆転するならば、アジアの解放は百歩前進する、――「白人投資の執達吏か東亜の盟主か」と、いわばアジアとの危機を逆手にアジアの危機を克服すべきことを強調する。 「劣弱者を侮蔑するの心は即ち優強者に拝跪する奴隷の心なり。……倫敦外務省のエゼントとなり東洋の印度巡査を拝命する盲従は一個独立国の威信を無視して最後通牒に指導権の要請を加へんとしたる倨傲なり」。 「欧州各国の経済的分割に習ひて日本又紛々たる割前の要求者たらんとする如きはその主義に違い任務に背く自殺的惰弱にして、――不肖が揚子江流域に於ける英国の所謂優越権を否認せんと欲するは、……之に換ふるに三井大倉等の資本を『悪用』して国家の正義を覆へさんと考ふるものに非ず。日本亦自ら二三資本家の欲望を犠牲に供さざるべからず。……債務国の身を以て国家の拡張を債権の設定に求めんとするが如き現状を見て実に欧米外交の翻訳的模倣を痛嘆せざる能わず。……白人国の卑陋なる高利貸政策を学びて而も支那の信頼を要請するの矛盾は発狂せる亜細亜の盟主なり」。 「亡国階級を擁護せんとする英国に盲従したる奴隷的外交と、債権の設定に参加し競争せる資本家的侵略とは、日本の国家的道念に訴へてなすべからざりしなり。日英同盟が内乱の他の一方に荷担して明白に干渉を始めたる時……（日本が）資本を以て、第二の朝鮮を支那に求めんとすとの猜疑恐怖は彼ら（中国人）の過度なる憂国的警戒に非ず」 「爾陸海軍は白人の支那における投資を保護すべき執達吏として甘んぜんが為のものか。…一呼直ちに百万の軍を動かし得べき日本の参加したる六国借款は……明白なる実力的準備を具有したるもの。特に財政監督の要求を掲げて肉薄したり。あゝ財政監督。……他に監督せられたる財政が其の国家或いは国民に与ふといふ財政学は悪魔の編纂したるものにして、英国は是を埃及と印度とに強行して自らその真理を証明したるといふ。」 こうした北の堂々たる論陣は、彼の伝統的国家主義との対決を、さきの内政（＝「国体論」）批判にいまや外交政策批判の観点をつけくわえることによって、いっそう絢爛たる双軸的大系に徹底させるものであった。同時にまた、それは、「国体論」における「ユトピア的世界主義」の糾弾を徹底させて、アジアにおける日本のナショナルな使命という観点から社会主義を規定しなおし、中国の独立と革命に役立つ社会主義という立場から既成社会主義の批判をおしすすめたものにほかならない。 |