〈わたし〉は脳に操られているのか　　　エリエザー・スタンバーク

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　精神科医のピーター・D・クレイマーは著書『驚異の脳内薬品:鬱に勝つ「超」特効薬』のなかで、サムという患者について語っている。建築家のサムは、自分が大好きなものはほとんどの人が眉をひそめるものだと気づいた。それはポルノである。彼はポルノ映画に純粋な興味を持ち、それを認めることを少しも恥ずかしいと思わなかった。それどころか、この問題に対する自分の態度を誇りにしていて、自分は性に関する個性を大事にしているのだと考えていた。彼の妻は全く反対意見で、ポルノには一切興味がない。サムに言わせると、妻は非常に保守的なので、彼がこれほど好きなビデオの真価を理解できないのだ。

　仕事上の問題と両親の死を経験した後、サムは鬱病にかかった。そしてクレイマー医師に助けを求める。当時、鬱病の新たな治療薬が製薬市場に導入されたばかりだった。プロザックロザックと呼ばれる薬だ。この新種の化合物を処方する医師はほとんどいなくて、クレイマーは患者に与えていいものかどうか確信がなかったが、サムは試すことにした。

　結果は驚異的だった。サムは気分がよくなっただけでなく、「気分がいいよりもっといい」と報告している。鬱状態は消えた。記憶力と集中力がアップした。仕事上の習慣や人前での話し方まで磨きがかかった。ところがプロザックによるあらゆるメリットにもかかわらず、サムは何かがおかしいと感じた。ポルノに対する熱意を失ったために、不安だったのだ。彼の象徴的信念、彼ならではのささやかな独自性はつねに、開放的な性生活スタイルを好むことだった。自分の人格のこの特別な一面がプロザックの服用を始めて突然消えてしまったことに、サムは悩んだのである。

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